拍手してくれた貴方のためのお礼その32(08/12/30) 「セクシーフォックスアンドロボ-超一部だけ執筆2-」 かつてネタとして発表した、 セクシーフォックスアンドロボを、 超一部だけ書いてみましたよって話その2。 前回から場面が一気にぶっとんでますが、 気にしちゃいけないルール。 流れが脳内補完出来ない人は、 ネタログの7参照。 「都子からいつも話は聞いています。・・・なんか、教育実習生って懐かしい響きだなー。高校以来だから」 「・・・玉田・・・都子さんが、僕の話を?」 皐先生は、やや上目遣いでテーブル越しの私の顔を見つめていた。・・・多分、彼の知ってる玉田都子と、今の私は似ているのだろう。 ・・・まぁ、同一人物だから当たり前なんだけど。でも、私が玉田都子本人だとは疑っている様子は無さそうだ。下手に別人に成りすましたりせず、大人に変身して姉のふりをするだけなのは、まだ変身術の未熟な私にとっては、正解だったかも。 「玉田・・・さん・・・都子さんは、僕のこと、どういう風に言ってるんです?」 やはり教育実習生は、生徒の印象が気になるのか。彼はややゆっくりの口調で、言葉を捜すように聞いてきた。 「そうですね・・・何でも出来て凄い先生、だとは言ってました」 私は続けて他にも、都子が感じた・・・まぁ、つまり私自身が感じた先生への素直な感想を述べた。ルックスも、頭も、運動神経もよさそうだけど、どこか影があるって言うか、一歩引いているというか、ちょっと踏み込みづらいというか。 「・・・ぐらいででしょうかね。都子が言ってたのは」 「そう、ですか。・・・結構、しっかり見られてるし、しっかり話してるんですね」 「まぁ、そうですね」 「・・・いつも、僕のことを興味無さそうに見ていたので」 彼はそう呟いて、残り少ないコーヒーカップを口元へ運び、そのまま飲み干した。私も合わせるようにコーヒーを飲み、少しの間無言の時間を作った。しばらくすると彼の方が私を見ながら小さな声で言った。 「そろそろ、出ましょうか」 私は、そうですねと、短く答えて二人で店を出た。 既に当たりは暗くなり始め繁華街の店々がにぎわい始めていた。 「送っていきましょうか?」 皐先生は、私のほうを見ながら静かに問いかけてきた。私は少しの間言葉を捜して、下を俯く。そしてすぐ顔を上げて、問い返した。 「先生は、お宅どちらでしたっけ?」 「方向は、玉田さんと同じだったはずですよ」 「でしたら、お願いします」 私は笑顔を作り、少し首を傾けてそう答えた。 そして私たちは暗い街を抜けて2人で並んで歩き始めた。 ・・・あれ? 2人っきりで、美男美女(?)が歩いているって言うのは、ひょっとしてこれ、世間一般で”いい雰囲気”と言われている奴なのでは・・・!? 「冷えますね。結構」 「ふぇ?」 皐先生の不意な問いかけに驚いて、私は思わず変な声で答えてしまったが、彼は笑うことも無く、そのことに触れもせず、真面目な表情で言葉を続けた。 「寒くありませんか、その格好。もしよければ、僕の上着をお貸ししますが」 私は改めて自分の姿を確認する。母から、母が若い頃に着ていた服を借りてみたのだが、どうにも露出が多いものばかりで、これでも割と控えめなものにしたつもりだったけど、やっぱり他人から見れば寒そうに見えるようだ。 「大丈夫ですよ」 「風邪をひくと、いけませんから」 ・・・皐先生、こういう気配りも出来るのか。 なんか、ますます完璧超人って感じだ。こうして性格までいいとなると、ひがんでるこっちが馬鹿みたいだ。 って、私ひがんでるのか? 「はい、どうぞ」 彼はそう言って着ていた上着を脱ぎ、私に手渡した。 「あ、ありがとうございます」 私はすっと手を伸ばして彼からそれを受け取る。そして袖に腕を通そうと、すっと腕を伸ばした、その瞬間だった。 何かに、私の腕が当たると同時に、小さな声が聞こえる。 「痛っ」 私は、はっとして声の聞こえた方を振り返った。瞬間に目に入ってきたのは、黒くてチャラチャラした若者風の上着だった。 「・・・御姉さんさ、何処見てんのさ」 「え?」 私は一歩後ろに下がって声の主を確認する。・・・するとそれはいかにも柄の悪い、茶髪ロンゲの目つきの悪い青年だった。周りには、同じような格好の男が2人ほどいた。仲間だろうか。 「当たったんだけどさ、何も言うこと無いの?」 「あ、ごめんなさい!」 「謝ってさ、すむ問題とすまない問題って有るよね」 「え?」 「服がさ、傷ついちゃったじゃんか」 彼は自分の服を指差してそう言う。彼の指差したところを見ると、確かに痛んでいるように見えるが、それは明らかに擦った痕だ。今の瞬間、私の腕が当たった程度で出来る傷では無い。 「それ、私のじゃ・・・!」 「何?自分じゃないって言いたいの?」 「だって、腕が当たったぐらいじゃ・・・」 「だって、持ち主の俺が言うんだよ?何、それを否定すんの?あんたがぶつかるまで、こんなところに傷なんて無かったんだけどさ」 「何よ・・・お金目的・・・!?」 「そんなこと言って無いじゃんか。だって・・・」 男は途中で言葉を止めて私に素早く近づき、私の胸元を掴み上げると、小さな声で呟いた。 「だって、罪の償い方ってさ、お金以外にも、いっぱい有るじゃんか」 そう言って彼は、私の腰に手を当てて、ゆっくりと顔を近づけて・・・! って、いやだ!こんな展開! 何で私がこんな目にあわなきゃいけないの!? 誰か、誰か助けて・・・! 「・・・あ、あのっ!その人を放してくれませんか・・・!?」 あわやという時だった。皐先生の声があたりに響き渡った。・・・そうだ、万能の先生なら、きっと喧嘩だって強いだろうし、結果が弱いとしても口が立つはず!助けてくれるはず・・・! そう期待した、次の瞬間だった。 「勘弁してください・・・その人、僕の生徒のお姉さんで、その人に怪我されたりとかすると、僕の評判落ちちゃいます・・・だから、無かったことに出来ませんか?」 ・・・。 ・・・・・・・・・え? いつものイケメンキャラは?かっこいいキャラは?何で皐先生、そんな情けない声出してるの? 「何それ。それが人にモノを頼む態度?」 「あ、そうですよね。すみません」 そう言って先生は、何の躊躇も無く、その場に膝を着き、軽々と土下座を披露した。 「ホントすみません。勘弁してください」 「・・・だせぇ。馬鹿じゃねぇの?」 「僕教育実習生なんで、問題とか起きたらまずいんですよ。だから、穏便に何とか出来ません?お金なら、払いますから」 「金じゃねぇって、さっきも言ったろ?何、実習生とか言って馬鹿なの?足りない子?」 男は、笑いもせず怒りもせず、淡々と呟きながら、私を掴んだまま土下座する皐先生の方に歩み寄り、間髪入れず、彼の横腹に蹴りを入れた。 「ちょっ、何すんの!?」 「喚くなよ。耳障り」 皐先生は、一層情け無い声を上げながらうずくまっている。私は怖くなったが、何とか先生を助けなきゃと思い、更に声を上げた。 「乱暴はやめてよ!悪かったって、謝ってるじゃないの!それにたかだか服のことで!」 「うるせっつってんだろ」 男は、私の声に流石にいらっとしたのか、私の身体を叩きつけるように大きく腕を振り下ろす。身体が地面にぶつかる瞬間、全身に痛みが走り、一瞬思考能力が鈍った。 「ぅっ・・・!?」 力が、上手く入らない。 すぐに立ち上がらないと、もっと痛い目に合わされる。そう思って立ち上がろうとするが、全身がしびれているかのように、うまく動かせない。・・・というか、なんか服も急にぶかぶかしてきたような・・・。 って、まさか・・・!? 「・・・何か、縮んでないか・・・!?」 男の仲間の一人が、そんなことを口にした。多分、私の姿を見てだろう。 最悪だ。今のショックで大人に変身していた術が解けてしまい、元の私、玉田都子に戻ろうとしているようだ。 「玉田、さんが・・・玉田に・・・!?」 不意に皐先生の声が聞こえた。私は慌てて先生の方を見る。先生もまた、うずくまったまま私のほうを見ていた。驚きの表情を浮かべながらも、しっかりとした目で。 ・・・だめだ、このままじゃ。何か、何か言い訳をするとかしないと・・・! 「先生、これは・・・その・・・!」 私は先生に助けを求めるように、彼に手を伸ばしていた。勿論、そのタイミングで私の視界には私の手が入る。だが、冷静さを失っていた私が、その異変に気付くまでに少しの時間が必要で、先に私を見ていた皐先生の方が、その事実に気がついた。 「玉田・・・お前、その手・・・!?」 「・・・私の・・・手・・・?」 言われても尚、ピンと来ていなかったが、先生の驚く表情が更に大袈裟なものになってきたことで、ようやく先生が何に驚いているのか、私に何がおきているのか、気付いた。 さっきのショックで私が自分にかけていた「大人に変身する術」は解けてしまった。術が解けたということは、私は元の姿に戻ることになる。 でも、私は大事なことを忘れていた。 ・・・そう、私の元の姿、本当の姿は、玉田都子という人間の姿ではないという事実を。 短い指、鋭い爪、柔らかな肉球、全体を覆う獣の毛。既に私の手は、人のそれとは大きくかけ離れていた。 「しまっ・・・!」 私は慌てて自分にもう一度術をかけて人間の姿を保とうとするが、焦っているせいでまともに術をコントロールすることも出来ず、私の身体はどんどん変化していく。 私は、完全に獣の前足と化したその手を地面につけ身体を猫のように丸める。 大部分は服で覆われて周りからは見えないだろうけど、私の変化は凄いスピードで進んでいる。骨格が人のものから獣のものへと変化し、靴が脱げ、そこから現れた足は既に手と同じで、肉球のついた獣のものだった。私はその足に力を入れて、四足でその場に立つ。 腰元からは長くフサフサした毛が姿を現し、ゆらゆらと揺れる。・・・尻尾だ。 そしてついに私の顔も、玉田都子の顔ではなくなっていく。顔全体にも毛が覆っていき、鼻先がピンと尖り、耳も三角形になって頭の上に移動していく。 「ぅぅ・・・クウォォン!」 私は、自分の内側にたまった何かを吐き出すように、大きな声で叫んだ・・・つもりだったが、それは既に”叫ぶ”というより、”吠える”だった。甲高いキツネの声が、あたりに響き渡るだけだった。 「玉田が・・・キツネに・・・!?」 それは、皐先生の声だった。・・・そうだ、先生と、この不良たちには私の変身の一部始終を見られてしまったのだ。私の本当の姿、キツネの姿になる瞬間を。 「キュゥゥゥ・・・」 私は怖くなって、自分の小さな身体を、脱げてしまった服で覆い隠すようにうずくまっていた。 続く