拍手してくれた貴方のためのお礼その4(07/12/01) 「超短編シリーズ-キャンプファイヤー・前編」 「キャンプファイヤー?」 「そ、どうする?行く?」 クラスの女友達が、にやついた顔で登校途中の私によしかかりながら声をかけてきた。 「親しい友人同士でさ、親も先生も抜きでワイワイやろうってこと!私ら受験生だけどさ、たまにはさ、こういうことぐらいしようやってことでね」 「うぅん・・・」 「・・・おろ?何かリアクション薄め?こういうイベントごと好きなはずじゃ?」 「キャンプファイヤーってさ・・・火、だよね?」 「・・・何を、当たり前のっ」 「だよねー・・・」 私は小さくため息をついた。確かに、私は小さい頃とか、運動会とか、学園祭とかそういった類のものは大好きだ。だけど・・・キャンプファイヤーは・・・なぁ・・・。 「おい、忘れたのかよ?」 私が渋い表情で言葉に詰まっていると、横から男の子が声をかけてきた。私の幼馴染で、中学3年になった今も同じ学校で、同じクラスだ。彼は私に寄りかかる女友達を見ながら話を続けた。 「こいつ、小5の時火事になっただろ?」 「・・・あ、そっか・・・。ごめん、無神経だったね・・・私・・・」 「う、ううん!いいの!全然そんなのは気にしてないから!」 私に寄りかかるのをやめた彼女は、申し訳無さそうな表情で頭を下げた。 「でも・・・やっぱり、キャンプファイヤーはなかったことで・・・」 「・・・ううん、やっぱり私行くよ!」 「え、大丈夫なの?・・・火が・・・怖いんじゃ・・・?」 彼女は、恐る恐る私に聞いてきた。 「大丈夫!気にしないで!皆でワイワイやれば、多分大丈夫!」 「本当?・・・じゃあ、出席ってことで、本当に良いんだね?」 彼女は念押しするように、私に顔を近づけて問いかけてきた。私は少したじろぎながら小さく首を縦に振った。すると彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべて、皆に報告してくると言って一足先に学校へと走り出した。 「・・・どうするんだよ。そんな約束して」 横にいた幼馴染の彼が、呆れた表情で私のことを見ていた。 「大丈夫だよ。火事って、もう4年近く前の話だよ?・・・もう、大丈夫だよ・・・多分・・・」 「多分・・・って何だよ。多分って」 「だってさ、ライターの火とか、ガスコンロとか見ても平気になったし。・・・キャンプファイヤーだって・・・」 「その4年前の時だって、お前が大丈夫大丈夫だって言っていながら、ああなっただろうが」 「でも、あれから4年経ってるんだよ?」 「もし何かあったら、尻拭いするの俺なんだぞ?」 「ってことは、キャンプファイヤー・・・あんたも来るの?」 「勿論」 彼は目線を私のほうに向けて、表情を変えずにそう答えた。 「だったら、一安心だ」 「何でそうなるんだよ。迷惑掛けないように努力します、ぐらい言えないのかよ」 「めいわくかけないようにどりょくします」 「棒読みじゃねぇか」 「それだけ、あんたのこと信頼してるってことだよ?」 「嬉しくねぇ」 そう言いながら、彼の顔は少し色づいて、目は穏やかになっていた。・・・この幼馴染と言う距離感が、温かくて、優しくて、歯痒くて・・・切なくて。そういうところも含めて私は、彼とのこの距離感が好きだった。 「・・・ったく・・・ほら、行くぞ!遅刻しちまう」 「うんっ」 返事をした私の声が少し嬉しそうに弾んでいたことに、彼は気付くだろうか。一緒にいることの素晴らしさを、どれだけ彼と共有出来てるだろうか。私は考えながら、彼と共に学校へと向かった。 そして、キャンプファイヤー当日。 私達は学校から程近い山の中にテントを張り、皆でワイワイやりながらドッジボールしたり、カレーを作ったりした。こんな風に皆で馬鹿騒ぎするのが久しぶりだったから、不思議なほどに楽しかったし、時間はあっという間に過ぎてしまった。 「楽しんでるか?」 「まぁね」 彼に声をかけられて、私はブロックに腰掛けながら微笑み返した。 「大分暗くなってきたし、そろそろキャンプファイヤー始めるってさ」 「そか。じゃあ行かないと」 「・・・なぁっ」 「何?」 「・・・やばくなったら、すぐに席外していいからな。異変感じたら、俺がすぐ追っかけてやるから」 「あれ?珍しいね、そっちからそうやって言ってきてくれるなんて」 私は立ち上がり、小さく伸びをしながら問い返した。彼は私と目を合わせようとせず俯きながら答えた。 「何だよ、人が気を使ってやってるのに」 「ん、サンキュ。・・・ほら、始まるみたい。行こ?」 「あ、あぁ・・・ったく、しょうがないな」 少し首をひねりながら、彼はうっすらと笑みを浮かべて、私が差し伸べた手を握った。彼の体温は、少しだけ上がっていたはずだけど、私の体温も上がっていたから、あまり感じなかったし、むしろ同じ体温で感じている、その連帯感が心地よかった。 キャンプファイヤーは丁度、松明の炎を点火しようとしていたところだった。暗い闇の中で、炎の灯は美しく揺らめきながら、燃え上がっていく。 「綺麗・・・!」 「・・・そうだな」 炎はまるで生きているかのように躍動感に溢れ、暗かったあたりを強く照らす。その炎を見ていると、凄く心まで温かくなっていくようで、身体の内側から、燃え上がるような気持ちの高まりを感じていた。ドクン、ドクン、と私の命の炎も力強く、脈動する。 ・・・って、この感じ・・・まずい!私ははっと気付き、自分の手の甲を見た。・・・遅かった。私が見た自分の手の甲は、既にオレンジ色に変色し始めていた。私は、あたりにそのことを気付かれないように、急いでその場から走り去る。突然のことに、友人たちは驚いて私を止めようとするが、私はそれを潜り抜けて森の中へと走っていった。